通勤電車から見えるマンションのベランダに、
いつも東京のフラッグをぶら下げている家があった。
そのフラッグがキレイにはためいていると1日の始まりが気持ち良かったし、
ショボンと垂れ下がっているとこっちまで気分がメゲたものだった。
台風や大雨の日なんかは、飛んでいってしまわないか心配したし、
翌日ピンと張られていたりすると、電車の中でひとり喜んだりもした。
電車からはホント一瞬しか見えないので、毎日同じ向きに立って、外を眺めてたなぁ。
その家族、引っ越してしまったのかどうか分からないけれど、
いつの日かフラッグは揚がらなくなってしまった。
今では揚がらなくなってしまったことさえ忘れていたけれど、
台風が過ぎ去って気持ちよいほど晴れた今日、電車に乗ったら突然思い出した。
僕はこういう瞬間がとても好きだ。好きだというか、とても愛おしく思う。
人の記憶は適当だ。
大切に思っていてもいつか記憶が薄れたり、どうでもいいことなのに覚えていたりする。
機械のように大切なデータを寸分違わず記憶していたり、
再生できるほど人間は便利じゃない。
だからこそ、忘れてしまうからこそ、誰かを、その思い出を、大切に思うんだろう。
僕はあなたとの思い出はとても少ない。
少ないけれど、いい思い出ばかりだ。
僕はあなたをいつか忘れてしまうかもしれない。
でも、どうかそれを許してください。
そしていつか思い出したら、いつものように笑って握手してください。
勝手なことばかり言ってゴメンナサイ。
短い間でしたが、本当にありがとうございました。