Jリーグ第5節、京都戦。
それは、ノブオさん(仲間うちではすっかりこの呼び名だ)が東京に移籍後、初先発となった試合だった。
ベテランと言われる年齢。減っていく出場時間。
中山という大きな存在と、カレンという次世代のFWに挟まれていた男は、
7年という年月を過ごしたジュビロから、東京にやって来た。
その男が、移籍して5試合目にして先発の座をつかんだ。
開幕前、いったい誰が彼の先発を予想しただろう?
ブラジル人ストライカーや、パラグアイ代表FW、東京の11番を背負う男…
さらには大学・高校きってのFWが加入したこのチームに、彼の居場所などあったのだろうか?
せいぜい、若いFWをまとめるベテランとしての役目ぐらいではなかったか?
GKには土肥、DFには藤山、MFには文丈や浅利がいる。
「いざという時に若手を引っぱれるベテランがFWにも必要だろう」。
強化部の人間がそう考えていたかは知らないが、ファンとしてはそれぐらいのイメージだった。
しかし、それは違った。
動き出しのタイミング、プルアウェイやウェーブの動き…
「オフ・ザ・ボールの動き」の質の高さは、途中交代で出場した開幕戦から明らかだった。
それが、高校、大学、ジュビロと経験を積んできた男のプレーだった。
1対1で迎えた後半。
東京の20番は、右サイドに流れたボールを必死に追いかける。
しかし無情にもボールはサイドラインを割った。
ピッチを叩いて悔しがる。
まるでシュートを外したかのような悔しがり方だった。
それを見て僕は、思わず応援の手を止める。言葉に詰まる。
溢れそうになる涙をこらえ、やっとの思いで「ノブオ!」と叫んだ。
それは彼に向けた言葉ではない。ピッチに立つ仲間全員にだ。
「なあお前たち、今のプレーを見たか?ノブオの気持ちを受け取ったか?」
そういう気持ちで叫んでいた。
思いは伝播する。
89分、徳永のシュートが、ゴールに吸い込まれた。
勝利への強い思いが生んだゴールだった。