どしゃ降りの中、帰り道ボクの目の前を歩いていた子が
小さな傘の下からパパを見上げて言った。
「今日はいいゲームだったね」。
その子の背中には、10という数字と「YAMASE」という
今日大活躍したトップ下の選手の名前が刻まれていた。
横浜の青いユニフォームだった。
そうなんだ。
ボクはやっと気がついた。
最悪のゲームは、最高のゲームで
最高のゲームは、最悪のゲームだということを。
東京がボコボコに負けた日は、敵が素晴らしい試合をした日で
東京がガンガンだった日は、敵にとって記憶から消し去りたい日だということを。
スタジアムにいる全員が、勝利の喜びで満たされることはない。
対戦する2チームのサポーターがいる限り、必ずどちらかが負けを味わう。
トーナメントという生き残りを賭けた戦いで、
あの日、ボクらはどちらかになる運命だった。
東京は死に、横浜は生きた。
これがトーナメントだ。
三浦文丈という選手から最後の数試合を奪ったのも、トーナメントだった。
敗者は消えるという意味で、カップ戦はリーグ戦よりも残酷だ。
頬に雨粒をつけながら、小さな10番が笑った。
ボクはただ、この残酷な結果を受け入れるしかなかった。